「阿彦哲郎物語」「ちっちゃいサムライ」

2024.01.14

1/10トークレポート:小笠原瑛作さん、佐野伸寿監督

1月10日(水)『阿彦哲郎物語』11:45の回上映後に行われたトークイベントのレポートです。ゲストに小笠原瑛作(阿彦哲郎役/KNOCKOUT-RED フェザー級王者)をお迎えし、佐野伸寿監督が進行役をつとめました。トークは撮影中のエピソードから、撮影後のポストプロダクションにまで及び、聞き応えのある内容となりました、

あたたかい拍手で佐野監督、主演の小笠原瑛作さんが登壇。早速トークスタート。

「この映画は、2019年から撮影がはじまって、コロナで一旦中断して再開、2021年に撮影が終わり、年末に編集が終わり、年明けに初号試写をしたんですね」と佐野監督から口火を切ると、小笠原さんも「コロナ明けの2回目の撮影にカザフスタンへ行くとき、出発の2週間か3週間前に僕がコロナに罹ってしまったんです。自粛期間は経ていたのですが、空港でPCR検査を受けたら陽性で、そのままタクシーに乗せられて自宅まで帰らされて、撮影に大迷惑をかけたという思い出もありますけど」と当時の苦い思い出を振り返る。

「この映画の撮影後、2022年1月にカザフスタンで政変がおこります。私が12月30日にカザフスタンで編集をしていて、映像をもって31日に日本に戻ってきたその3日後にアルマトイで暴動がおきました。その後、ロシア軍が介入して鎮圧、この映画を作ろうと最初に言っていたナザルバエフ大統領が失脚するという事態に陥って、さらに2月にウクライナにロシアが攻めて戦争が始まりました」とカザフスタンを襲った混乱について話し、「小笠原さんが撮影にきていたのはウクライナ侵攻前で、その頃とはカザフスタンも雰囲気がガラっと変わるんですよね」と続けた。

「そんなに状況が変わっているんですか?」と心配そうな小笠原さん、「戦争が始まるとロシアには物資が入ってこない、そうするとロシアの人はカザフスタンに買い出しにくるんですよ。だから、カザフスタンで安かったものが突然二倍くらいの値段になったりする。だから『ちっちゃいサムライ』は制作費がそんなにかからない予定だったのですが、物価高の波に襲われて思わぬ苦労をしました」困ったような表情で佐野監督は語った。

それを受けて、「カザフスタンってメガジムがたくさんあって、ウェイト施設もすごく揃っていて日本で言えばトップクラスのジムがいっぱいあるんです。僕は撮影の合間にそこでフィジカルトレーニングをさせてもらっていたんですけど、そこも日本に比べれば値段は安かったようでしたが、変わったんですか?」と質問を投げかける。

「そうですね。今は違うかもしれませんが。小笠原さんが行ったときはちょうど景気がよかった時で、戦争もはじまっていないし一番よい時期だったのかもしれません。それに、この映画は平和な時代だったからこそ、ロシアもウクライナも協同して映画を作れたんだと思う、イデオロギーもあんまりなく昔のスターリン時代にひどい目にあった日本人の物語として作れたんだと思うし幸せな映画だなと思いましたね。撮影現場にはいろんな人がいたでしょ?」と佐野監督。

小笠原さんも撮影当時を振り返って「いろんな国のスタッフの方とか、収容所のシーンの俳優さんも国がさまざまで、言葉もみんな違う。この映画に出てくる囚人で背の低い人が出てくるのですが、彼はウクライナ人ですよね。東ウクライナの人やタジクとかいろんな民族の方が参加してくれました。東欧ロシア人もいっぱい出ていて、そういった中で制作した映画です。監督の演出で僕は周りの人が何を言っているかわからない状況で、この人が台詞を言ったらこの台詞を言ってください、というような演出だったので、当時の阿彦さんも言葉がわからない中で捕らえられたからその心の不安とかを感じることができました。だから、今、この話を聞いて、あの俳優さんはウクライナ人だったんだ、あの俳優さんはロシアの人だったんだっていま知りました。この映画ができて僕自身も全体像が見えてきた」と語った。

佐野監督はまた、撮影後のポストプロダクションについても説明した。「この映画はまだ平和な時代に制作されたので、CGを作ったのはウクライナのキーウ、音声のミックスはサンクトペテルブルグでやって、スタッフの中にはロシア人もウクライナ人もいて、そうやってできた作品です。それでこれを公開をいつにするかすごく悩んだんです。この映画はスターリン時代を批判している作品なので、この映画に関わったロシア人スタッフがロシア政府から不利益を被るのではないかと、悩みました。もう一本の『ちっちゃいサムライ』はひどい目にあったけどいろんな人に会って成長する物語なんで一緒に公開することで多少ケチをつけられないで済むんじゃないかなと思って。そういった経緯で公開に踏み切ったところがありました」

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